鐘鋳(かねい)神社の狛犬

  • 2019年3月17日
  • 福島県鐘鋳神社

はじめに

昭和初期から戦前戦後にかけて福島県内で活躍した石工に小林和平という人物がいます。彼は奥州一の名工と謳われた小松寅吉の元で厳しい修行を積み数多くの優れた石像を残したことで知られています。特に師匠寅吉が完成させた”飛翔獅子”と呼ばれるスタイルを受け継いだ狛犬の評価が高く、その躍動感溢れる姿とユーモラスで愛らしい表情はとても魅力的です。

小林和平の狛犬は狛犬ネット(たくき よしみつ様)にて詳しく紹介されています。狛犬の解説も豊富なので神社を訪れる前に読むとより深く楽しめることと思います。

さて、多くの狛犬を残した和平ですがそのなかでも石都々古和気(いわつつこわけ)神社(石川町)、古殿八幡神社(古殿町)、鐘鋳神社(棚倉町)に奉納された狛犬は「和平三大名品」と呼ばれ特に高い評価を受けています。石都々古和気神社は陸奥国一宮、古殿八幡神社は流鏑馬と神社自体も由緒正しくとても知名度があります。それに対して鐘鋳神社は重要無形民俗文化財に指定される神事があるものの県内ですらほとんど知られていません。

鐘鋳神社をGoogleマップで検索すると何も無いところを指し示します。実際は林の中にあるのですが神社まで続く道が描かれていません。そのため狛犬を見ようと訪れる人がしばしば道に迷うそうです。民家の敷地内のような道が正しいのか不安になるみたいです。今回、浅川町役場から鐘鋳神社までの道のりを詳細に調べて来ました。ぜひ参考にして小林和平の素晴らしい狛犬達を福島に見に来てください。

石都々古和気神社の狛犬は和平の代表作です。 3匹の子獅子がいる親子獅子です。

石川町の石都々古和気神社の狛犬。和平の代表作として人気が高い。夭折した3人の子供を重ねて彫ったと言われる子獅子のエピソードが見る人の心を打ちます。
平成28年に石川町指定文化財になりました。
(2015年10月撮影)

古殿八幡神社の狛犬も和平作です。 表情にユーモラスさを感じます。

こちらは古殿町にある古殿八幡神社の狛犬です。
(2016年5月撮影)

鐘鋳神社を探して

鐘鋳神社の住所は福島県東白川郡棚倉町一色です。棚倉町と行っても隣接する浅川町との境に近くむしろ浅川町役場からのほうが近い位置にあります。最寄り駅は水郡線の磐城浅川駅になります。神社付近に駐車スペースが無いという情報もあったので浅川町役場の駐車場に車を止めて徒歩で鐘鋳神社に行くことにしました。

鐘鋳神社は駅と反対方向の町の西側にあります。

浅川町役場の正面に役場駐車場があります。

浅川町役場です。近くに民俗資料館があります。

公民館の前を通って西に進みます。 潰れた商店を過ぎて交差点を渡ります。 交差点を渡ると林が見えてきます。 林の手前が浅川町と棚倉町の境界です。

棚倉町に入ります。
杉林を抜けると左カーブが見えてきます。

林を抜けてしばらく歩くと左カーブがあります。 左カーブに鐘鋳神社の案内看板があります。

浅川町役場から15分ほど歩き左カーブに差し掛かると控えめな鐘鋳神社の看板が見つかりました。どうやら300m先に神社があるようです。右手を見ると細い砂利道が続いています。道幅は1.5m程度で軽自動車なら問題ありません。ちなみにこの先に路上駐車できるスペースが無いので大型SUVなどは進入しないほうが無難でしょう。

右に曲がると細い砂利道になります。民家の敷地内? 土蔵の側を抜けると水田になります。

土蔵や農機具倉庫の間を抜けると水田が広がっています。農閑期なので誰も居ませんでしたが夏場は農作業をしている人とすれ違うかもしれません。通行には十分注意してください。鐘鋳神社は右手に見える雑木林の中のようです。

右手に林が見えてきます。 馬頭観音石碑が鐘鋳神社の入口です。

道路がY字で分岐する場所が神社の入口です。
入口に馬頭観音が並んでいるのですぐに分かると思います。

鐘鋳神社の狛犬

境内は高く育った杉の木に囲まれて日中でも薄暗い。狛犬は鳥居の前に鎮座していました。建立から80年が経過しているせいもあってか全体が苔むしています。しかしその緻密な線刻をはっきりと確認できます。力強いのにどこかユーモラスで愛らしさを感じる表情。もちろん飛翔獅子と呼ばれるスタイルの躍動感は言わずもがな。和平三大名品と呼ばれるのも頷けました。

土台には小林和平の銘と奉納した人達の名前がたくさん刻まれています。ここ棚倉町一色は和平の妻ナカの故郷だそうです。名工に嫁いだナカのためにも立派な狛犬を奉納したいという地元の人達の思いがあったのでしょうか・・・。

鳥居の前に小林和平作の狛犬があります。 吽形の狛犬です。 顔のアップです。 足下の子獅子の顔です。 頭の横の子獅子の顔です。 尾の造形も細かいです。 台座に刻まれた小林和平の名前です。 阿形の狛犬です。 牙も緻密に彫られています。 踏ん張った後ろ足から力強さを感じます。

その他の見所

鐘鋳神社には狛犬以外にも見所があります。

境内にお枡明神枡送りで使う高床式の御仮本殿があります。

水木しげるの漫画に出てきそうな小屋があります。
これは県指定重要無形民俗文化財「お枡明神枡送り」で使われるそうです。約400年前から行われている神事でご神体の”升”を棚倉町福井区、玉野区、一色区と浅川町蓑輪区の順に3年毎に遷座する時の御仮殿(おかりどの)となるとのこと。何故高床式なのか気になります。積雪や湿気対策なのか?それともイタズラやネズミとか?過去には低床式だったこともあるらしい。茅葺き屋根のため造営にかなり苦労しているそうです。職人が減ってるので近い将来神事が途絶えてしまう可能性があります。

境内に淡島信仰の石像があります。 淡島さまは女性神とされます。

女性の姿が刻まれた淡島信仰に関する石碑があります。
淡島信仰とは和歌山県和歌山市加太の淡嶋神社を総本社とする全国の淡島神社や淡路神社の祭神である淡島神を祀る民間信仰。淡島神は婦人病治癒を始めとして安産・子授け、裁縫の上達、人形供養など、女性に関するあらゆることに霊験のある神とされます。幕末から昭和初期にかけて大流行し、淡島願人と呼ばれる人々が淡島神の人形を祀った厨子を背負い、淡島明神の神徳を説いて廻った事から信仰が全国に広がったそうです。
福島県では白河周辺の神社でよく見かけることができます。鐘鋳神社の石碑には「昭和三年 講中安全」と刻まれています。その頃は淡島講が組織されて遠く和歌山までお参りにいっていたのかもしれませんね。

参考資料

緯度経度情報

  • 緯度: 北緯37度5分1.87秒
  • 経度: 東経140度24分4.25秒
  • UTMポイント: 54SVG46770434
  • 標高: 304m

GPSトラック

浅川町役場から鐘鋳神社までをGPSで記録したトラックです。
GPS精度にばらつきがあるため多少の誤差があります。